各種情報

2021(令和 3)年 5月 5日

日本学術会議第25期推薦会員任命拒否問題に関する声明

産業・組織心理学会理事会

 今般,菅内閣総理大臣は,日本学術会議第25期会員任命に際し,個人の専門的研究業績,各研究分野での活動と貢献の高さをもとに日本学術会議が新規に推薦した105名の会員候補者のうち6名を敢えて任命しませんでした。日本学術会議はこれに抗議し,2020(令和 2)年10月2日付「第25期新規会員任命に関する要望書」および2021(令和3)年4月22日付声明「日本学術会議会員任命問題の解決を求めます」において,推薦した会員候補者が任命されない理由の説明および,任命されていない6名の会員候補者の速やかな任命を求めました。また,多くの学術団体も同様に抗議する声明を発出しました。しかるに,現時点に至るまで納得のいく回答がなされておりません。
 産業・組織心理学会理事会は,日本学術会議協力学術協力団体であることを踏まえ,衆目の一致する業績と識見を有する研究者であるにも関わらず,6名の学術研究者が任命されなかったことについての説明を求め,それがなされない限り,速やかな任命を求めるという,前記の日本学術会議の発出した要望書に賛同し,菅内閣総理大臣に対し,速やかな回答を強く求める意見表明を行うこととしました。

 

 それに加えて,本件は,産業・組織心理学会の基本をなす研究主題とも密接に関連するものと考えられることから,下記の通りの意見表明を付加することとしました。
 産業・組織心理学会は,1985年の発足以来,社会に開かれ,適正な成長を続け,創造的にして働き甲斐を提供できる,健康にして安全な産業・組織は,どうあるべきか,どうあってはいけないかを,心理学の観点から研究し,議論し,その成果を社会に発信してきました。
 私たちは,そのような産業・組織心理学を専攻する研究者として,今回の人事(説明なしの任命拒否)にかかわる問題を,専門領域である組織運営に関する適切な意思決定と、組織行動に関連する人々の尊厳のありかたの観点から,非常に憂慮しています。第1に,組織において,定評のある高い業績と貢献をしている個人が人事評価の上で拒否され,その理由が推薦者にも明かされないことがどのような影響を及ぼすかということです。いきおい周囲の関係者は,その理由を憶測し,根拠のない噂に尾ひれがつき広がります。ひいては不明さ由来のネガティブな「忖度」を働かせ,闊達な発想や言動を自己規制する連鎖が定着し,組織風土の沈滞に結びつくことになるでしょう。第2に,関連して,組織内で他者に敬意を払い,互いの違いを認め,多様性を尊重する芽を摘むことにつながりかねません。そして第3に何よりも,根拠非開示・根拠不明の拒否は,誠実に実績を重ねてきた個人に対するハラスメントともなりえます。公正な評価基準が歪められ,関係者のモチベーション水準の低下が強く懸念されます。
 そもそも,この学術会議が戦争の反省から日本の,ひいては世界の平和に貢献するべく,時の政府からの独立した諮問機関として設立されたことは見識であったと思われます。ある時代の一時の政府の判断が,歴史的に妥当であるとは限りません。産業・組織心理学の知見からしても,単一の方向性しかもたない集団は集団思考(group think)に陥りやすく,そのことが社会に大きな不利益をもたらしてきたことは歴史が証明しているところです。このため,時の政府が多様な異なる意見を取り入れるために,国が独立性の高い日本学術会議という学術的専門性の高い機関を持ち,そこに必要な費用および人的資源を公的に投入することは,わが国にとって極めて重要な意味をもっているものと考えます。

 

 産業・組織心理学会は,これからも引き続き,学術研究の意義と価値を確認し,他者の多様な研究活動と実績に高い敬意を払い,自由にして対等な議論を続けながら,社会と学術界に目を開き,貢献していきたいと考えています。そして,産業・組織心理学会理事会は,改めて組織運営に関する人事の意思決定の透明性,ならびに,学術研究の価値と社会的意義の保持の重要性を確認するとともに,日本学術会議の設立の趣旨を尊重し,菅内閣総理大臣に対し,日本学術会議の2020(令和 2)年10月2日付「第25期新規会員任命に関する要望書」に対する速やかな回答がなされるよう強く求めます。

PAGETOP